伝統の荒行 若者が挑む
試練の3日間

「うおー」。屈強な若者たちが雄たけびを上げ、裸で極寒の海に飛び込む。渡島管内木古

内町の冬の風物詩、寒中みそぎ祭りだ行修者と呼ばれる4人の若者が3日間、昼夜を問わ

ず冷たい水を浴び続ける。180年にわたって繰り返されてきた男たちの荒行が、今年も

13日から始まる。(大城道雄) 
佐女川神社で寒中みそぎ(渡島管内木古内町)
 
 みそぎ祭りは13日夜、佐女川神社で行われる安全祈願の儀式「参龍報告祭」で幕開け

する。野村広章宮司(54)が祝詞をあげた後、「水ごり」と呼ばれる水浴びの鍛錬が3日

間続く。3日目には津軽海峡の荒波に飛び込んでご神体を清める「海中みそぎ」が行われ

、祭りはクライマックスとなる。海中みそぎ終了後は浜の近くで最後の水ごりが行われ、

その水しぶきを浴びた者にはご利益があるといわれる。

 昨年の水ごり初日の最低気温は氷点下5.6度だった。小雪舞う境内で、行修者は「え

ーい、えーい」と気合を入れ、おけの水をバシャバシャと浴び続けた。野村宮司は「初日

の水ごりは、若者たちが厳しい試練に耐えられるかどうかを確かめる緊張の瞬間です」と

語る。

 寒中みそぎが始まったのは1831年(天保2年)。佐女川神社の神社守が「ご神体を

清めよ」というお告げを夢の中で聞き、潜水で身を清め、ご神体を抱いて海に入ったのが

始まりとされる。その年から地元は豊漁豊作に沸いたといわれ、みそぎは長年、地元の漁

業者が中心となっぞ継承してきた。

 行修者には末娘の若者だけが選ばれる。一度行修者になったら、必ず4年間務めなけれ

ばならない。行修者が抱くご神体は「弁財天」「山の神」「稲荷」「別当」の4体。1年

目は弁財天、4年目は別当というように、4人は毎年違うご神体を抱くからだ。長い歴史

の申で、途中で離脱した行修者は一人もいないという。

 行修者は木古内の若者にとってあこがれの存在だ。約40年間、祭りの運営に携わって

きた神社責任役員の門間辰太郎さん(72)は「昔は若い漁師が『おれが入る』『いや、お

れが』と率先して手を挙げたものです」と話す。

 最近は少子化の影響で若者が減り、行修者を希望する人も少なくなったという。そんな

中、今年は秋田県出身、道教大函館校1年の藤原哲朗さん(19)が新人行修者に名乗りを

上げた。藤原さんは「4年間を頑張り抜き、人生の壁を乗り越えるための精神力を養いた

い」と意気込みを語る。

 寒中みそぎは近年、全国各地から4千人もの観光客やカメラマンが集まる一大イベント

となった。2015年度に開業する北海道新幹線の道内最初の停車駅となる木古内町は、

「みそぎの町」として観光を活性化させようと、イベントの盛り上げに力を注ぐ。

 町観光協会の東出文雄会長(64)は「若者たちが必死で頑張る姿を、ぜひ多くの人に見

てもらいたい」と話している。
 
 
ワンポイント 太鼓や嘲子披露「富まき」も

 参籠報告祭は13日午後6時、水ごりは7時ごろから。いずれも佐女川神社で行われ、

誰でも見ることができる。駐車場あり。

 14、15日には「寒中みそぎフェスティバル」が町健康管理センター前の「みそぎ広場」

を中心に開かれる。14日午後5時30分から開会式を行い、町民がちょうちんを手に広場

から神社までの道を練り歩く「みそぎ行列」が行われる。沿道には約300個のアイスキ

ャンドルやかがり火が並び、幻想的な雰囲気だ。神社では町民有志によるみそぎ太鼓やみ

そぎ喋子が披露され、5円玉を投げる「富まき」、もちまきも行われる。午後7時ごろか

ら水ごりが始まる。

 15日午前10時ごろ行修者4人が神社を出発。氏子らとともに町内を練り歩き、海中みそ

ぎが行われるみそぎ浜に向かう。みそぎ広場では午前10時から物産フェア、11時からグル

メフェアを開催。木古内産和牛やナガイモを使った「こうこう汁」などの郷土料理が振る

舞われる。海中みそぎが行われるのは午前11時50分ごろ
  
 
 2011年01月05日「北海道新聞」朝刊より 

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